2014年02月26日

音楽エッセイ1:チャルメラとオーボエ

チャルメラとオーボエ



 いい加減なこと、筋道の通らない無責任な物言いを指す表現「ちゃらんぽらん」は、江戸時代にできた言葉だそうだ。その起こりは、屋台のラーメン屋の代名詞チャルメラだとする説がある。南蛮物として江戸初期に渡来したこの「唐人笛=スルナイ(哨吶)」は、吹き口にストロー状のワラをつけて発音部とし、先がラッパ状に広がる木製円錐管、表7孔・裏1孔の縦笛である。チャルメラは、当時、チャラメラ、チャンメル、チャルメロ、チャメロ、チャンメラなどとも呼ばれた。この楽器独特の音色は、おかしげなわけのわからない調子だというわけで、「ちゃらんぽらん」という新語が誕生したらしい。

チャルメラの名は、唐人笛を長崎でみたポルトガル人がチャラメラ charamela(ポルトガル語・スペイン語でリード笛の意=イタリア語の ciaramella=フランス語のシャリュモー chalumeau)
と呼んだことに由来する。ちなみに、江戸時代にチャルメラを吹いたのは、飴売りだった。「あんなんこんなん飴」を売る「異装の物売り」が、唐人姿で唐人笛を吹きながら江戸の町を巡ったとか。いっぽう、清朝のころの北京の街角で、「小銅角」(チャルメラ)を吹きながら商売をしたのは、鋏や庖丁を研ぐ「磨刀」たちだったそうな。中国北部の田舎町では、哨吶(ソオナー)が今でもお祭りのときに活躍している。歌舞伎囃子では、中国情緒や下町気分を表現するときにこの楽器が用いられる。

 乾燥した「アシ reed」を薄く削って作る笛の振動部(リード)が上下に二枚ある木管楽器は、ダブルリード(複簧)と総称される。チャルメラは、リードがワラ製の古典的なダブルリード楽器なのである。オーケストラに欠くことのできないダブルリード楽器に、オーボエ oboe があるが、実は、オーボエとチャルメラは親戚関係にある。古代
中近東文明に始まるとされる原始ダブルリード楽器は、ヨーロッパでショーム shawm
という中世の古楽器を経てオーボエへ進化し、いっぽう、中国ではチャルメラへと変身したのだ。

チャルメラやショームはリード全体を口に入れる形式なのだが、オーボエではリード先端を唇にくわえて吹く。この改良により、オーボエの音楽的表現力は著しく増大した。オーボエは、リードを除いて、3つの胴体部分(頭管部、足管部、ベル)に解体できる。中央の足管部を除いて無理に楽器を構築して吹いてみると、その音色がオーボエなのかチャルメラなのかわからなくなってしまう。このことが、両者が親戚関係にある何よりの証拠といえよう。ダブルリード楽器の仲間としては、オーケストラ用低音部楽器のファゴット(バスーン)のほか、スコットランドのバグパイプや雅楽用縦笛である篳篥(ひちりき)もあげられる。

こんなエピソードを聞いた。チャルメラをきちんと吹くことは相当に難しいらしい。ある屋台のラーメン屋が、チャルメラ自慢ついでに、「もしこの楽器がうまく吹けたらこの屋台ごとくれてやる」と息まいていた。そこに行きあったあるプロのオーボイストが、さらっとチャルメラを吹きこなしてしまった。屋台を譲るとごねた意地っぱりラーメン屋のおじさんに、この先生、結構往生したのだそうな。

 以前、タイへ出かける機会があった。タイの古典的民族音楽の楽器の中に、チャルメラそのものをみつけたときはうれしくて思わず近くに駆けよってしまった。大きな音がでるため、おもにファンファーレ風のトランペット的な役割を担っていた。タイ語名は「ピーチャナイ」。「ピー」はその音からつけられた名前だそうだ。「チャナイ」はきっと中国語の「スルナイ」と同一起源だろう。無理を言って譲ってもらった中古のピーチャナイはとてもとても演奏が難しかった。さすが、プロのオーボエ吹きはすごい!その後、沖縄の首里城で、琉球音楽にもチャルメラの仲間の楽器が使われていることを知った。

 オーボエとは、フランス語の hautbois(haut=高い、bois=木)、つまり、高音の木管楽器を意味する。しかし、「高い」のはピッチの高さではなく、むしろ、音の大きさを表わしたらしい。17世紀後半、パリのオットテール一族により改良されたバロックオーボエ(ツゲ製で、キーはわずか3つ)は、音色の表現力の広さに優れ、しかも、大音量での演奏が可能であるため、17世紀末までにはオーケストラの一員としての、また、ソロ楽器としての地位を確立した。複雑なキーシステムをもった現在のオーボエ(フランス型)ができあがったのは、ほんの100年ほど前のことだ。

 オーボエは、アフリカ産の黒檀(こくたん ebony=blackwood)という柿の木の仲間から得られる非常に硬い均質な木材を原料としている。ケニア滞在中、カンバ族の職人さんたちが巧みに製作する彫り物に思わず感心したが、考えてみると、あの黒くて硬い丸太の芯が、しろうとオーボイストである著者がそれなりに4年あまりの練習を重ね、わざわざケニアにまで持参したこのメロディー楽器の原料そのものだった!決して「ちゃらんぽらん」に練習しているわけではないのだけれど、本当に手強い楽器だ。オーケストラの音合わせに、合奏に先立って、ラ(A)の音を出すのが第一オーボエ奏者の役割だが、この単純な音の音程を正しく保つのさえ、初心者にはとても難しい。チャルメラにはたいへん申し訳ないが、チャルメラ風の「ちゃらんぽらん?」な雑音は出だせても、心にしみる音楽にはほど遠い。プロになるわけではないのだからといくらグチってみても、言い訳にはなりません。登るにはとても「高い木」なのですが、とにかく、練習あるのみ。

 堤 寛、「医学のあゆみ180 (2): 122, 1997」より
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2014年02月25日

日本病理医フィルハーモニー 第3回演奏会 in 広島のチラシが完成しました!!

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日本病理医フィルハーモニー 第3回演奏会 in 広島のチラシが完成しました!!

日本病理医フィルハーモニー
Japan Pathologists Philharmonic
第3回演奏会 in 広島

保科洋:オペラ「はだしのゲン」より 序奏・麦の歌&フィナーレ
指揮: 秋山 隆 ・ 岡 輝明

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第一部 指揮:秋山 隆
♪ビゼー / 『カルメン』前奏曲
♪ベルリオーズ/『幻想交響曲』より第4楽章    
♪保科 洋/ オペラ『はだしのゲン』より
  「序奏」と「麦の歌&フィナーレ」
  バリトン独唱:鎌田 直純

第二部 指揮:岡 輝明
♪ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番『皇帝』より第2、第3楽章
 ピアノ独奏:瀧山晃弘
♪プッチーニ/トゥーランドットより「誰も寝てはならぬ」
 テノール独唱:米澤 傑
♪モーツァルト/アヴェ・ヴェルム・コルプス
♪プッチーニ/トスカより「星は光りぬ」
 テノール独唱:米澤 傑
♪シベリウス/交響詩『フィンランディア』

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2014. 4. 26(土) 19:00 開演( 18:30 開場 )
広島国際会議場 フェニックスホール
■会場■ 広島市中区中島町1-5 平和記念公園内 TEL082-242-7777

■入場料■ 無料(一般市民、患者さんのための演奏会です)予約不要
■お問い合わせ先■ 堤  寛(JPP団長:藤田保健衛生大学医学部・病理 0562-93-2439)
          宮崎龍彦(マネージャー:岐阜大学医学部附属病院・病理 080-4031-3984)

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2013年11月21日

オーボエと私 〜しろうとオーボエ吹きの贅沢,「輪の和」,そして JPP〜(1/7)

オーボエと私
〜しろうとオーボエ吹きの贅沢,「輪の和」,そして JPP〜
(^_^)v 趣味に生きる(第29回)〜太陽〜☂〜くもり〜☃〜太陽〜☂
堤 寛
(藤田保健衛生大学医学部 病理学教授)

◆オーボエリードの話
 リード(reed)を使う木管楽器には,ダブルリードの(2 枚のリードで音を出す)オーボエ,ファゴット(バスーン)とシングルリードのクラリネットやサキソフォーンがある。リードはアシ(ヨシ)の意味で,十分に乾燥させたアシ(イネ科の植物)の茎をリードに加工する。リードに適したアシはすべて人為的に栽培されている。
 伐採は冬期に行われ,枝や葉を切り落とした状態で年余にわたって乾燥させる。乾燥期間は7年が必要とされてきたが,最近では2年程度で,節を切り落としたパイプ状で出荷される。南フランスの地中海気候がアシの乾燥に最適とされる。日本の気候では,何年も保存しておくと酸化してパサパサになってしまうそうだ。
 プロのダブルリードプレイヤーは自分で “マイリード” を削る。材質にも大いにこだわる。素人オーボエ吹きの私はリードづくりができないため,リードは “おっしょうさん” がたより。市販品(といっても,プロオーボエ吹きの作品)を買うと,1 本 3,000 円前後する。しかも,オーボエリードはあまり長持ちしない。タンギングの多い曲を一生懸命に練習すると,あっという間に鳴らなくなってしまう。本番にリードをベストの状態に保つことはとてもとても難しい。本番直前の練習(業界用語では “ゲネプロ” )で本番用リードをダメにしてしまうことが少なくない。というわけで,本番用に複数本のリードが必要なのである。
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